俺は電話で話をしながら、その子を気にして見ていた。
夜こんな所で女の子が1人歌を唄っている姿に、思わず物語が頭をよぎった、、、
母子家庭で、お母さんからの愛情は満足なものではなく、ほったらかし。
ご飯もカップ麺や菓子パンのみで済ませている。
小学校の給食費も払っておらず、先生から何度も呼び出しされているも行った試しがない。
言い訳は決まってこうだ、、、
「え?母子家庭で育ててるの私、仕事で忙しいの。」
それで、その女の子は給食費が払えないと言う事と、毎日同じ服なので虐められている、、、
それでも、その女の子には味方になってくれる人は誰一人居ない。
本来なら、一番身近な母親の愛情を感じた事が無いので、甘えるという事をした事がないのだ、、、
それでも、近所の人でいつも優しく声をかけてくれるおばさんが1人だけ居た。
そのおばさんの子供達はみんな巣立ち、立派な大人になって今では二人の孫もいる人だ。
旦那さんは、3年程前に脳梗塞で先に逝ってしまった。
淋しさと言うのでもない、孤独なのとも違う、、、
どこか、心の中にぽっかりと穴が開いたような空虚感に似た何かだった。
そんな時、その女の子がいつも電柱の明かりの下で、歌を唄っていた。
いつもいつも一人で居るその女の子は、昔の我が子たちを思い出させるには十分だった。
おばさんは、ある日声をかけた。
「おかあさんいつも遅いの?よかったら、おばさんちでお母さんの帰り一緒に待つ?」
女の子はこう答える、、、
「ううん、お母さんが帰って来たら荷物持ってあげられないからここで待つの。」
女の子はけなげにも、母親の荷物を持ってあげたいという優しさがあった。
女の子はお母さんから愛情を注いでもらった事は無いのに、、、
「優しいね、、、。じゃあ、そこでいっしょにお歌唄ってもいい?」
「うん、ここでならいいよ。」
二人は、毎日その場所で歌を唄って、女の子のお母さんの帰りを待った。
毎日1時間ほど経って、お母さんは帰宅した。
でも、そのお母さんは、そのおばさんに何も言わず挨拶すらしなかった。
おばさんは、毎日
「こんばんは、毎日遅くまで大変ですね。」
と、声をかけ続けたが、一度も返事が返ってきた事はなかった。
そんなある日、いつものように女の子といっしょに歌を唄ってお母さんの帰りを待っていたが、待っても待ってもお母さんは帰ってこない、、、
2時間経ち、3時間経っても帰ってこなかった。
夜中の1時になっても、2時になっても帰ってこない、、、
朝方5時頃になって、家の前で停まった1台の車から、酔ったお母さんが降りて来た。
女の子は、泣きながら駆け寄った、、、
「お母さん!」
それでも、お母さんは一言こう言っただけだった、、、
「あんた、まだここに居たの?バカじゃないの?」
いっしょに朝まで居たおばさんは、思わず口を開いた、、、
「よくもそんな事を!この子がどんな思いであなたを待ってたのかあなたは知ってるの!?」
おばさんを一瞬見たものの、それでも何も言わずお母さんはうちの中に入っていった。
おばさんは、憤りを感じたと共に、女の子が可哀想で可哀想で心が痛んだ、、、
次の日の夜、女の子は電柱の下に来なかった。
『どうしたのかしら、、、』
おばさんは、心配になった。
『私が昨日、感情的になった事がいけなかったのだ。』
と、反省した。
もう女の子といっしょに歌を唄う事はできないのだろうか、、、
いつの間にか、おばさんの方が女の子から元気をもらっていた事に気付いた。
と、その時だ、、、
おばさんの家のチャイムが鳴った。
ピンポーン、ピンポーン、、、
『女の子かな?』
おばさんは玄関に急いだ。
玄関のドアを勢い良く開けると、そこには、、、
女の子と、その隣に女の子のお母さんが立っていた。
「、、、すいませんでした。いつもいつもこの子の事、、、ありがとうございます。」
深々と頭を下げるお母さんの姿に、おばさんは胸を打たれてこう言った。
「いいのよ。私の方こそ昨日はごめんなさい。言い過ぎたって反省してたの。」
おばさんは、家の中に二人を招き入れると、お母さんの話を聞いて胸が苦しくなった、、、
女の子のお母さんも、物心ついた時から母子家庭で育てられ、愛情を注いでもらった経験が無かった。
だから、我が子に愛情を注ぐ事ができなかったのだった。
父親も、誰かも分からずたった独りで出産したという話も聞いた。
そして、、、
その日から、とても仲良くなって3人は親子のような関係になった。
DVDレンタル屋の前で歌を唄う女の子の元に、レンタル屋から仲良くしゃべりながら出て来るおばさんと、女の子のお母さんが来て3人で手をつないで笑いながら歩いて行った、、、
と、なればな。
と、思っていたら、、、
その子のお母さんと一緒に、お兄ちゃんや弟とさらには妹までもがレンタル屋から出て来たのだった、、、
大家族だった。
良かった♡
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